こんにちは
かつて3年余りのイタリア滞在中で
何か(イタリア人女性との)ロマンス
はなかったのか?と聞かれた事があります。
全くありませんでしたが唯一、しいていえば
限りなくそれに近いような出来事がありました。
このブログでも何度も書いてますが
中部イタリアはトスカーナ州にあった
リストランテ ガンベロ ロッソで修行して
いた時の事でした。
ガンベロロッソは当時ミシュランガイド2つ星、
イタリアの権威あるガイドブックでも長年にわたり
イタリア国内でナンバー1、そしてイタリア国内で
最も修行の厳しい店の1軒でありオーナーシェフの
フルヴィオ ピエランジェリーニは一見気難しい変人、
メディアからは孤高の天才シェフ等と言われ名声を
得ていました。
一方で人の入れ替わりも多くありました。
ある日キアラという名の20歳のイタリア人女性が
コックとして入ってきました。
僕はイタリアで多くの19才20才と仕事で
関わりましたが私服はジャージというような
ヤンチャであどけない人達ばかりの中
キアラはバーバリー風のコート姿で現れ
まるでお嬢様のような明らかに今までの若者とは
違った雰囲気でした。
同僚のイタリア人シモーネはキアラを一目見て
ボソッと言いました。
「massimo 1mese (もって1ヶ月)」
キアラは北イタリアの国境沿い
フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州
(以下フリウリ)の出身で実家は代々
レストランを経営しているやはりお嬢様でした。
キアラの仕事はデザートやパンの担当で
キアラに対しては皆優しく気を使われている
様子でした。
ただ厨房の雰囲気(人間模様)は決して良くはなく
特に僕はイジメというか何というか孤立して
常に怒鳴られ罵られる毎日でした。
そんなピリピリした日々の中でも忙しい夜の営業が
終わって後片付けをしている時は緊張も
解けて皆ちょっと緩やかな雰囲気になります。
そんな時僕はキアラと少しずつ話するようになりました。
当時イタリアでトム・クルーズ主演の
ウルティモ サムライ(ラスト サムライ)
が上映されておりその話題がきっかけでした。
日本人の俳優も日本語で出演し字幕が
イタリア語という映画でした。
キアラは「ショウタロウは日本人だから
(日本人俳優の日本語が)理解出来たんでしょ?」と
俳優のモノマネをしたりして打ち解けて
いきました。
キアラが入って最初の休日と2週目の休日は
ガンベロロッソがあるサン・ヴィンチェンツォという
小さな街を探索して過ごしたそうです。
3週目の休日キアラは地元フリウリに帰省
しました。
そして4週目の休日もまたフリウリに帰省したと
聞いた時僕は危険なものを感じました。
サン・ヴィンチェンツォからフリウリまでは
東京から大阪くらい離れてます。
笑顔の可愛い娘だったのに表情が暗くなって
いきました。
そして何日かたった昼営業後の休憩時間に
キアラから本屋に行こうと誘われました。
僕が本屋が好きでよく行くというのを覚えて
くれたのだと思います。
サン・ヴィンチェンツォ唯一の小さな本屋で
キアラは「私今日で辞めるの」と打ち明けてきました。
そんな予感はしていたけど僕は驚きました。
もう一人エンティアーナという26歳の女性と
二人で辞めるそうです。
エンティアーナも数日前から賄いの食事を
食べなくなっていて危険な様子でした。
キアラはもうガンベロロッソを嫌いになっていて
「彼(オーナーシェフ)は料理を知らない。
魚おろしている隣でデザート作るなんて
あり得ないから」
僕は心の中で厨房が狭いから仕方ないんだよと
思いました。
「(地元の)フリウリだったら私良い店紹介出来るから。
ショウタロウ逃げよう。」
と言われました。
俺寮に入ってるから無理だよ、と
意味不明なダサい返事をしたのを
覚えています。
ちなみに当時キアラ20歳、僕31歳。
イタリア人はよく"逃げる"という言葉を
使いますが決して悪い意味ではないようです。
要は望まない環境なら我慢しないで変えた
ほうが良いみたいなニュアンスです。
ずるいという言葉も悪い意味ではなく
時に褒め言葉としても使われます。
ずるいというのは落ち着いた賢さの裏返しでも
あるように思います。
イタリア人が本当に褒める時に使う
トランクイッロ(落ち着いている)という言葉があります。
ピンチの時「彼はその時とても落ち着いていた」
というのを美徳とする価値観があります。
逆に無我夢中とか一心不乱みたいな冷静さが
欠けているような状態を嫌います。
日本と真逆ですね。
横道にそれましたがキアラから
携帯番号を書いた紙を渡されました。
「電話して」
キアラは僕に対して特別な気持ちが
あったわけではなく日々罵られまくっている
僕の姿が哀れに感じたのだと思います。
その電話番号の紙は日本に帰国するまで
僕は財布の中に入れてました。
結局一度も連絡しませんでしたが
今でも年に一度くらいキアラって
今何歳になったんだろと思い出します。